臺灣文學虛擬博物館

余韻と共生

佐藤春夫の作品は、台湾を記録し想像する模範として、後世の作家の摸倣や批判を呼びながら、台湾文学と文化論述の豊富な可能性の源となりました。口琴と灯火と少女が現出する原住民の世界を描き、また悲恋と潮の香と幽霊屋敷などの道具立てに、ミステリーや「才子拾扇」説話の形式を応用した春夫の作品からは、繁栄する文明の外側の世界が立ち現れてきます。後世の人々が作品の舞台探索に魅了され、風景の再現に駆り立てられたのもそのためです。

また、それとは別に、台湾の魅力を怪奇と野性の側面に閉じ込めず、歴史性と生活感の側面から掘り起こそうとした人々もいます。調査報告に努め、作り話を批判したこれらの知識人には、前嶋信次・國分直一・石暘睢・朱鋒（荘松林）などの一団の人々が数えられ、戯れに「台南学派」と呼ばれたほどでした。台湾の日常を描いて日本に注目された「台湾の少女」黄氏鳳姿や、「金儲けの神様」邱永漢は、いずれも春夫の協力を受けました。21世紀の今日にいたるまで、佐藤春夫のメッセージは明晰であり、深みのある豊かな彼の作品は、人々の新しいインスピレーションを掻き立てています。

『楚々公主』（『媽祖』第七冊）　西川満　1935年11月　媽祖書房。淡水の港に臨む邸宅を一人で守りながら、異国の父の帰りを待つ少女の美しさを描く。廃墟と狂女の組み合わせに、「女誡扇綺譚」の影響が著しい。（河野龍也蔵）

『華麗島』創刊号　1939年12月。本誌には新垣宏一、邱永漢の同名の詩「廃港」が収録されている。「廃港の古城」、「船の待つ狂乱の女」等の安平描写から、佐藤春夫の影響を強く受けていることがわかる。（国立台湾文学館蔵）

「「女誡扇綺譚」と台南の町」 新垣宏一『台湾日報』　1940年5月2日。新垣宏一は高雄で生まれ育った。東熙市の歯科医院が近くにあり、佐藤春夫の作品を愛好していたため、台南で教員を務めている間、「女誡扇綺譚」の內容について詳細に考察し、「台南学派」の一員となった。（台南市立図書館蔵）

『赤嵌記』限定版　西川満　1940年12月　日孝山房。75部限定本の17番。赤嵌楼で出会った不思議な青年に導かれ、鄭氏台湾統治時代の陳一族の哀史に触れる。歴史の都・台南探求の物語。（河野龍也蔵）

《臺灣小說集》（1941.9，墨水書房）復刻版　中村地平　2000年9月　ゆまに書房。中村地平は宮崎生まれ。佐藤春夫の作品に魅せられ、台北高等学校への進学を決めた。その作品「南海の紀」では「女誡扇綺譚」と廃港安平に触れている。（国立台湾文学館蔵）

『台湾の少女』，黄氏鳳姿，1944年3月，東都書籍。まだ小学生であった黄鳳姿が台湾民俗を描いた文集は注目を浴びた。佐藤春夫はその純粋な言葉、斬新な題材を賞賛し、自分と九歳になる息子も忠実な読者になったと述べている。（国立台湾文学館蔵）

『台湾の少女』広告　『民俗台湾』4卷1号　1944年1月。『台湾の少女』新刊広告。「民俗の貴重な記録であると共に、純真な児童の心をあたためる書である。佐藤春夫序　立石鐵臣挿絵」（国立台湾文学館蔵）

「台南地方文学座談会」　『文芸台湾』5巻5号　1943年3月。台南市四春園で行われた「台南地方文学座談会」において、「女誡扇綺譚」は日本人が台湾に眼を向けるきっかけとなったが、今の任務は台南の本当の魅力を発見することであると新垣宏一らが述べている。（国立台湾文学館蔵）

『華麗島歲月』　新垣宏一著　張良澤編訳　2002年8月　前衛出版社。台湾で生まれ育った日本人（湾生）新垣宏一の台湾生活の回想録。高雄で生まれ、台北で学生生活を送り、その後台南・台北で教員を務めた新垣の民俗研究の実地調査の取り組みが描かれている。（国立台湾文学館蔵）

「「女誡扇綺譚」と禿頭港」　楊熾昌　『台南文化』新19期　1985年6月。「風車詩社」で名高い作家楊熾昌は父・楊宜緑が『台南新報』に勤めている間、やせ型で眼鏡をかけている佐藤春夫を見たことがあると回想している。楊熾昌は1980年代、追想の形式で佐藤春夫の台湾作品を賞賛している。（台南市立図書館蔵）

『濁水渓』 邱永漢　1955年11月　現代社。戦後日本に進出した邱永漢が『濁水溪』執筆後、佐藤春夫は「あの小説は合格です」と称賛し、単行本の題字を認めた。その後、邱永漢は文壇から遠ざかり、レストランを経営したが、中華料理を熱愛した佐藤春夫夫婦は開店時に足を運んでいる。（国立台湾文学館蔵）

『華麗島軼聞：鍵』　何敬堯ら著　2017年10月　九歌出版社。現代台湾小説家が共同で創作した歴史ファンタジー小説。台南の街道、西川満が重要な役割を果している。（国立台湾文学館蔵）

女誡扇綺譚　映像と音声の再創造　陳飛豪　2019